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SNSとオタク文化 No.003

SNSとオタク文化 No.003

「オタク」という言葉が生まれたのが1980年代初頭。当初、この時代を牽引したのは間違いなく「アニメ」だったが、現在は「アイドル」市場だけで1100億円を優に超え、いまだ年率30%の伸びを見せているという。一世を風靡したAKB48はピークを過ぎたように見えるが、乃木坂46のような新興勢力に移行したり、ジャニーズなどの老舗グループには根強くファンがいる。

さて、オタク産業の括り方や分類は難しく、議論を呼ぶものだが、おそらく「ゲーム」、「マンガ(アニメ)」、「アイドル」が3大産業だと言って間違いはないだろう。ここでは自らの体験として「アイドル」産業とSNSの親和性について話をしてみたい。独自のマーケティング戦略を立案し、実行するには、顧客の行動を知ることが大切だ。これはどの業界でも参考になると思う。

私は2013年末に「モーニング娘。」らが所属する「ハロー!プロジェクト」のファンが集うBAR「ハロー トライブ」を自ら開店させた。実はこのことが自分の転機になった。20年近くIT業界に身を置き、顧客のIT戦略の実装を糧としてきたが、自らが経営する実店舗でITを自在に実験できる場ができたことは、ノウハウの蓄積や顧客側のニーズ体感といった意味において、IT屋としても相当なアドバンテージを得たと自負している。

この「ハロー トライブ」の場合、ターゲットは「ハロー!プロジェクト」のファンであることは明らかだ。顧客がオタクである場合、前提としてその趣味を公にできない場合が多い。ひと頃よりも理解が進んだとはいえ、「アイドル」オタクは、ときに嘲笑の対象であることをオタク自身はわかっているのだ。彼らは彼らと同じフィールドにいる者同士でしか、オタクであることを明かさない。あなたの隣のデスクの同僚ももしかすると何かの「オタク」であるかもしれないが、あなたにはそのことを話したりはしないものだ。

当然、お店自体も「ハロー!プロジェクト」のファン以外の来店はお断りにしている。このような店舗の場合の宣伝広告媒体を皆さんならどう考えるだろうか?ターゲットが購入する雑誌に広告を載せるか、GoogleやYahoo!にリスティング広告を出すか?どちらもそれなりに効果はあるだろう。しかし、私の実体験としてSNSが一番効果的であったのだ。ただし、どのSNSでも良いわけではない。例えば、実名での交流が基本となっているFacebookはこの場合は適さない。もちろん、「ハロー トライブ」もFacebookでの公式ページを立ち上げてはいるものの、主だった宣伝活動の場はTwitterに落ち着いている。Twitterは基本オープンで、誰でも興味のあるつぶやきを検索して見つけることができ、共感が得られればフォロワーを増やすことも比較的容易という特徴がある。何よりもそのつぶやきが時勢にマッチし、多くのオタクに共感を得られた時の「リツイート」による拡散力はSNSの中でも圧倒的だ。これを使わない手はない。

「ハロー トライブ」では店舗公式( @hellotribeHQ )のアカウントとは別に、私自身がハロプロのことを自由に呟くハロトラ店長( @reqtubehellopro )というアカウントを運用している。ターゲットが大きな愛情を注ぎ込む対象に対し、名を伏せつつ日々発信されるイベント情報やその実況、公開された新曲のYoutube動画などについて語るには、今のところTwitterは最適なツールである。基本的には誰に対して話すわけでもない、言うなれば「独り言」であるために、思いを自由に発信できるし、見知らぬ人から「いいね!」をもらえたりもできる。

店舗公式アカウントでは今日は営業日か休業日か、今日のハロプロの都内イベントは何があるのか?だけをツイートしている。今のところ、顧客がお店に行きたくなる情報というより、行きたくなったときに営業しているかどうか確認するための情報と割り切っている。ただしそれでも2017年3月17日現在ですでに3,483人のフォロワーを獲得している。なお、これらのツイートには毎回店舗公式Webサイトへのリンクを貼り、そこに行けば少なくとも2週間先の営業日がわかるカレンダーを掲載しているが、Push認知の側面からTwitterでも毎日つぶやくのである。

一方で、自分の個人アカウントでは、自分の感じたことやその日のコンサートの感想など、一般のオタク同様、自由なツイートができている。私の人柄についてもある程度の予想がつくような嘘偽りのないつぶやきを信条としており、私のフォロワーは少なくとも私(のつぶやき)に対して好感を持ってくれている。実はこのことは店舗運営にも大きな役割を負っている。そもそもBARという店舗スタイルは人によって好き嫌いが分かれるのが普通である。万人が愛してやまないBARなどはあり得なく、そうした方向性で店舗運営をすれば特徴のないお店になってしまい、常連は生まれない。小さなお店こそオーナーである私自身のキャラクター性が顧客の趣向に影響を及ぼす。良くも悪くもそれが適切だと判断するまで、それほど時間はかからなかった。毎日3~5回程度のつぶやきだが、こちらのアカウントも3,538人(2017年3月17日現在)のフォロワーを獲得している。一ファンのTwitterアカウントとしては、おそらく全国上位10位には入るだろう。そもそもまだその程度のマーケットサイズなのだ。「アイドル」のなかで「ハロプロ」に限定したお店である。まさにニッチ・ビジネスそのものである。私はこれまでのTwitter運用で様々なノウハウを身につけることができた。このような実際のTwitter運用についてはここでは詳しく述べないが、この2つのアカウントを利用したTwitter広告(有料)も上手に行えば少額で大きな効果があることは述べておきたい。ただし、Twitter広告は最初が取っ付きづらい。Facebook広告もそうだが、広告運用ページの操作が非常に難度の高いものに思える。高度なターゲット設定や効果測定を実現しているために、初心者にはややハードルが高いものになっていると言って良いだろう。もちろん、広告の出し方、ターゲットの設定の仕方にも様々なノウハウがある。一様にはいかない。失敗を恐れず、アイデアを出し合い、リスクを抑えながらトライを重ね、効果を見ながら修正してゆくプロセスにこそ、あなたの会社、事業、店舗での独自のノウハウが宿ってくる。大手でもやすやすと真似できない、あなた独自のSNS運用が可能となるのだ。

最後にLineのビジネス運用についてご説明しなければならない。Lineは基本的にクローズドのSNSだが、顧客の囲い込みには最強のツールと言える。当初は大企業向けの公式アカウントしかなかったが、近年「Line@」という中小企業や小店舗でも使えるオープンに使えるアカウントが用意された。最近特に注目を浴びているbot(自動メッセージ)機能は、facebookやTwitterでも使えるのだが、Lineで使えばアプリケーションのような効果を持たせることができる。ちなみに「ハロー トライブ」でもお店の公式「Line@」に面白い機能を独自に作り込んでいるが、このコラムが長くなりすぎるので、また改めてここにフォーカスした記事でご紹介したい。

あれやこれと手を出すのではなく、あなたの事業に適切なSNSを見極め、最終的に何をしたいのかを定めて、その利用図を描くことから始めて見てはどうだろうか?私はあなたのビジネスに最適なSNS利用法のお手伝いをしたいと願っている。

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